りぼんの読書ノート

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旅の終わりの音楽(エリック・フォスネス・ハンセン)

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海外のすぐれた文学作品を紹介する目的で1998年に創刊された「新潮クレストブックス」の記念すべき第1号作品です。

映画『タイタニック』を見た方なら、船が沈没する間際まで、演奏を続けていた楽士たちのことを覚えているでしょう。(昔の映画のほうが、楽士たちの取り扱いは感動的ですが・・)。この本は、国籍も年齢も異なる様々な生い立ちを持ちながら、数奇な運命を経て、タイタニックに乗り合わせることになった7人の楽士たちの人生を描いた物語。

でもこれは、実在の楽士たちの語ではありません。あくまでも、タイタニックのエピソードに刺激を受けた著者が創造した、架空の人物たちの、架空の物語です。

読者は皆、この物語の結末を知っています。主人公的な役割を果たすバンドマスターのジェイソンは、子供時代に「宇宙では壮大な音楽が奏でられている」と、天文学者だった父親から聞かされて育ちました。この7人が同じ船に乗り合わせて同じ運命を共有することは、あたかも惑星運動の法則のように、初めから決まっていたかのような、印象を持たされます。

ロシアの貧乏楽士の息子であったアレックスも、ドイツで神童と呼ばれ作曲を志しながらも時代の変化の中で才能を埋もれさせたスポットも、ウィーンで恋人の少女が惹かれた俳優の前で発砲事件を起こし家出同然の状態でしてロンドンまでたどりついたダヴィッド少年も、イタリアで人形劇の中に神秘の声を聞いたペトロニウス老人も、「宇宙の音楽」のハーモニーの中で、あらかじめ定められた運命に身を委ねただけのように思えてくるのです。

単なる「お涙頂戴」の物語ではありませんでした。

2007/4