りぼんの読書ノート

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再起(ディック・フランシス)

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この著者の大ファンという会社の先輩がいました。「競馬」という狭い社会を舞台にした極上ミステリーというだけではなく、「イギリス紳士としての名誉あるふるまい」を正義とする著者の姿勢がとっても魅力的に思えるそうです。確かにその通り。

本書は愛妻を亡くして一旦は筆を折った著者が、86歳の高齢をおして6年ぶりに著した「競馬シリーズ」最新作。主人公は、シリーズに何度か登場した、元騎手の調査員シッド・ハレー。

障害レースの最高峰、チェルトナムカップの当日に騎手が射殺されます。直前に、某上院議員から「持ち馬が八百長に使われている疑い」の調査を依頼されていたシッドは、真相をつきとめようとするのですが、どうやら2つの事件は関連していそうです。さらには「ギャンブル法改正」を巡る政治的な動きもあって、事態は複雑な様相を呈し始めます。

ブックメイカーが乱立している英国ですが、昨今ではインターネットを利用したギャンブルも盛んになってきています。「ギャンブル法改正」は規制を緩和する狙いのものですが、本当にそれでよいのでしょうか。そもそも「ネット・ギャンブル」の公正さは疑わしいのです。「ネット・ルーレット」なんて、運営者が参加者を装って賭けに参加しておき、瞬時にどこに入るかを決定させてたら負けるわけがない!

86歳のご高齢をおして「ネット・ギャンブル」なんていう新しい話題に挑戦しようとの意欲は素晴らしい。でも少々、おいたわしい。高度に政治的な犯罪の存在を予想していたのですが、案に相違して真相は「単なる卑劣漢の犯罪」というあたり、オールドスタイルを貫いてくださいました。ある意味、安心しました(笑)。

本書の白眉は「調査をやめないと恋人を襲う」と脅迫されて悩むシッドの傍らで平然とふるまう恋人マリーナの態度でしょう。事実襲われるのですが・・。善人が殺されて、本人も恋人も痛めつけられても、最後に「正義が勝つ」『水戸黄門』的な香りも、このシリーズの魅力なのです。

2007/3