りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

8エイト(キャサリン・ネヴィル)

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こういう女性が、スーパーレディなんだろうな。コンピューター業界で活躍し、バンカメの副社長まで勤めたキャリアの傍ら、 画家、モデル、写真家まで経験し、小説まで書いちゃうんですから。作風としては「ダン・ブラウンの先駆者」。本書の後に書かれたマジック・サークルでは、ダ・ヴィンチ・コードより先に、マグダラのマリアとイエスとの関係に着目して、古代の謎を巡るアドベンチャーストーリーに仕立て上げていますしね。

本書も、その類のストーリーです。古代人が発見して伝説のチェスセットに伝えた、宇宙を司る「8」の公式。シャルルマーニュ大帝亡き後のフランク王国を滅亡に導いたと言われ、封印された修道院の名を取って「モングラン・サーヴィス」として伝わるチェスセットを巡って、2つの冒険が進行します。

ひとつは、革命の嵐吹きすさぶ18世紀末のフランス。革命政府によって閉鎖を命令された、モングラン修道院の修道女たちが、封印を解かれたチェスセットを持って、ヨーロッパ各地に散らばります。ロベスピエール、ナポレオン、エカテリーナ女帝らが秘密を求めて追う中、修道女ミレーヌは、セットを守りきることができたのでしょうか。

もうひとつは、第一次石油ショック直前のアルジェリア。コンピュータ専門家キャサリンは、突然、2世紀もの間続いている争奪戦に巻き込まれてしまいます。歴史的なOPEC総会で、石油価格高騰の影響をシミュレーションしているのに、それより重要だなんて。2つの冒険がシンクロする時、ついに「謎」が解かれるのですが・・。

現代のヒロインは、明らかに著者自身をモデルにしています。最も弱い駒で使い捨てにされるポーンにすぎない弱い女性であっても、8段目に達すればクィーンに変身できるというのが隠されたテーマ。はじめは誰かの駒として使い捨てにされるはずだった彼女たちでしたが、生き延びて敵陣深く入り込めば、重要な役割を担うことができるのです。チェスは本来「王殺し」のゲームであった、との指摘も示唆に富んでいます。

ダン・ブラウン天使と悪魔』あたりとの比較では遜色ないと思うのですが、女性が主人公ではヒットしないのでしょうか。「謎」自体はマジック・サークルのほうが、ずっと爽やかですけどね。

2007/2