りぼんの読書ノート

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風神秘抄(荻原規子)

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『勾玉シリーズ』の第4弾にあたりますが、勾玉はもう登場しません。平安末期、もはや神代は遠くなっています。

物語は平治の乱から始まります。敗走する源氏一統に付き従う若武者、草十郎は、落ち武者狩りに合う13歳の頼朝の身代わりになって村にとどまるのですが、彼には、鳥と会話し妙なる笛の音を奏でる不思議な力が備わっていました。彼の姓は「足立」ですから『薄紅天女』の阿高か藤太の子孫ですね。彼と会話するカラスは「鳥彦王」。明らかに『虹色勾玉』の鳥彦の末裔。

上京した草十郎は、六条川原にさらされる義朝、義平父子の首級を弔う遊女・糸世の、魂送りの舞に心を奪われます。思わず笛を吹く草十郎の前に降り注ぐ光り輝く花吹雪は、もちろんこの世のものではありません。2人の舞と笛が共鳴したときに、運命をも変えうる力が生まれたのです。惹かれあう2人の特異な力に気付いた後白川上皇が、彼らの力を自らの天寿を伸ばすために用いようとした時に、悲劇が生まれます。神の領域に近づこうとする者が払う代償が、大きくないわけが無い。

荻原さんの作品には、いつも、しっかりした生死観を感じます。ひとつの世界を作り上げるファンタジーには、作者の人格が現れますよね。ル=グィンの『ゲド戦記シリーズ』だって、彼女が人生経験を積んでからの4巻以降のほうがはるかに深みを増してきたわけですし。単なるストーリーテラーでは、感動を与える物語は書けないってことかな。

虚実織り交ぜた細部もいいですね。草十郎が貴船ですれ違う美少女2人。年上の侍女は「弁」と呼ばれます。義経も弁慶も女だったのか・・。糸世が飛ばされた、「門」を超えた所の世界は、彼女には楽しくなさそう。だって、そこは「○○○」だったのですから。^^;

2007/2