りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

三月は深き紅の淵を(恩田陸)

イメージ 1

姉妹作の『麦の海に沈む果実』は、「記憶を巡る物語」でしたが、本書は「物語を巡る物語」ですね。

『麦の海に~』でも謎の本として登場する「三月は~」ですが、ここでは4話のオムニバスを貫いて、しっかり主役を張っています。全てが1冊の本を巡っての物語であり、複雑な入れ子構造を超えて、現実世界と本の世界が溶融していくような構成になっているのです。

第1話は、たった1人に1晩だけ貸すことが許された幻の本を、好事家たちが本にまつわる推理を楽しみながら、探し出そうとする話。ここでは本は、書かれている最中です。

第2話は、2人の女性編集者が幻の本の作者を推理しながら、ようやく突き止めた作者に会うために寝台特急で出雲まで向かう話。ここでは本は、既に書かれているのです。

第3話は、2人の女子高校生(実は異母姉妹?)の死の真相を巡って、2人の間に起きた出来事をつきとめようとする友人たちの話。ここでは本は、将来書かれるべきものとして提示されています。

第4話では、1話から3話までを書いた「作者」が登場してきます。この本を締め括るに際して、単なる円還構造や入れ子構造の展開には飽きたらず、ここからさらに別の物語を紡ぎだしていこうという物語。ここでは本は、自分自身のエピソードになっているのです。

第4話で『麦の海に~』の別バージョンが登場するのも楽しいし、全編を通じて、ラフカディオ・ハーンの影が見え隠れするのも、作者の原点を垣間見せてくれたようで興味を掻き立ててくれます。このシリーズ、ほかにも何冊かあるそうです。楽しみがひとつ増えました。『麦の海に~』を紹介してくれた、みゆさんに感謝です。

2007/2