りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

スカヤグリーグ(ウィリアム・ホアウッド)

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何だか意味わからないタイトルですよね。でもこれは、とってもとっても感動した本なのです。

主人公の「ぼく」が出会った「スカヤグリーグ」というゲームは、とっても奇妙な質問から始まるものでした。「あなたの妻は出産で亡くなり、残された赤ちゃんは重い障害が確実。この子の生死はあなたに委ねられています。この子を生かしますか?」 このゲームは「はい」でも「いいえ」でも開始できません。先に進むことができる唯一の答えは・・・「わからない」。

「ぼく」はこのゲームを進めていくうちに、不思議な感覚に襲われます。まるで、このゲームは、自分に何かを伝えたがっているかのような・・。「ぼく」は、ゲームの作者であるエスターのことを調べはじめます。

「スカヤグリーグ」とは、知性を表現する手段がないため、ごく近年まで人間扱いされていなかった、脳性麻痺患者たちの間で語り伝えられてきた都市伝説に登場する、救世主の名前。「知性豊かな脳性麻痺患者であるアーサーが仲間たちの助けを借りて、病棟の鬼の看守ディレクをやりこめる」という、一連のおとぎ話の中で、アーサーが信じていた救世主がスカヤグリーグだったのです。

エスターは、教育を受けることが出来た、若い世代の脳性麻痺患者。やがて「天才プログラマー」となるエスターは、入院中に聞いた伝説の断片に興味を持ち、物語の蒐集をはじめます。「アーサーが実在する」と確信し、アーサーを探し出そうとするエスターが見つけ出した真実は、やがて、彼女自身をも伝説の一部に巻き込んでいくことになる、アドベンチャーへと続いていきます。

コンピューターなしには「ちがー」としか表現できないエスター。エスターを女神のように崇拝している、ダウン症患者トムの純情。数十年もの間、病棟に幽閉されていた、アーサーと仲間たちの運命。彼らのエピソードには、何度読んでも泣かされちゃいますし、エスターの冒険や恋愛には、ハラハラドキドキ。最後にわかる「ぼく」の「真実」にも意表を衝かれます。こういう本に出会うと、「読書が好きで良かった」とつくづく思うのです。

(クラブの「しりとり」で)