りぼんの読書ノート

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シアター!(有川浩)

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300万円の負債を抱えて解散の危機に瀕した小劇団「シアターフラッグ」を救ったのは、主宰・春川巧の兄・春川司でした。しかし司の本心は、30歳になっても生活の目途がつかない弟に演劇をあきらめさせることだったのです。「2年間で劇団の収益から300万を返せない時には、劇団を潰せ」との厳しい条件がつきつけられます。

 

かくして「鉄血宰相」と異名をつけられた司の監査のもとで、「泣き虫主宰」春川巧、看板女優の早瀬牧子、ペシミストの太志、熱血担当の黒川、二枚目担当の小宮、デジタルに詳しい茅原、うっかり者のスズ、なにわリアリストのゆかり、牧子にぞっこんの石丸、新人ながらプロ声優の羽田千歳らの挑戦が始まります。

 

しかし小劇団とは、なんと採算が取れない世界なのでしょう。2年で300万の純益を出すことが、とてつもない試練なのです。しかも主宰も俳優も無報酬なので、ひとりあたりの月収に換算すると、たった1万2500円でしかありません。これは、別に本業を抱えた者が趣味の範囲で行うべきことですね。

 

目標設定、工程管理、コスト節減、利益追求というサラリーマンの経営感覚で、売れないクリエイターたちの趣味的な活動に切り込む様子が小気味よい作品です。売れない劇団俳優のまま離縁されて孤独死した司と巧の父親像、プロ声優・羽田の疎外感、劇団員同士の軋轢や感情のもつれなども描かれますが、主題は明確です。

 

2019/7