りぼんの読書ノート

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蜩ノ記(葉室麟)

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2011年度下期の第146回直木賞受賞作です。2014年に、岡田准一、役所浩二、堀北真紀らのキャストで映画化もされました。

豊後羽根藩の青年藩士・檀野庄三郎は、不始末を犯して罪を問われるべきところ、向山村に幽閉中の元郡奉行・戸田秋谷のもとに遣わされます。7年前に前藩主の側室と密通したという罪で、家譜編纂と10年後の切腹を申し付けられていた秋山の仕事の進捗状況と、3年後の切腹を見届けることが命じられたのです。

やがて壇野は、誠実な秋谷に敬愛の念を抱き、彼が無実であることを信じるようになっていきます。秋谷の免罪を訴えようとするのですが、彼自身が罪を犯した身であり身動きもままなりません。一方で檀野は、農民たちの不穏な動きにも気づかされます。その背景には、秋谷が郡奉行であった際に奨励した換金作物が利権化されて大商人だけが儲かる仕組みになっていること、不作であっても年貢の取立てが厳しいことがあり、一揆が起きる寸前になっていたのです。

秋谷が犯したという罪の真相、秋谷が編纂する家譜に隠された藩の大事に係る疑惑、農民と武士の関係などが重層的に重なって行き、檀野はついに家老と対決する腹を固めるのですが・・。

武士の死生観に通じる覚悟や矜持を前面に出しながら、クライマックスに向けての迫力ある展開、秋谷をライバル視していた家老の独白など、なかなか良くできた作品でした。この著者の作品は初めて読みましたが、まさに藤沢周平の後継者ですね。

2016/9