りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ゲイルズバーグの春を愛す(ジャック・フィニイ)

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森谷明子さんが俳句甲子園を目指す女子高生たちを描いた春や春で、ある登場人物の愛読書として紹介されていた作品です。1950年代に書かれた短編を編纂したものですが、冷戦時代に保守化を進めたアメリカ社会が、ノスタルジーを求めていたように思えます。

「ゲイルズバーグの春を愛す」
開発業者は廃止された路面電車に轢かれそうになり、旧い邸宅の火事は馬車が曳く消防車によって鎮火される。古き良きたたずまいを残すゲイルズバーグの町そのものが、現代化に抵抗しているようなのですが・・。

「悪の魔力」
不思議な骨董品店で買ったのは、透視を可能にする眼鏡や、相手を思い通りに操る奴隷腕輪。気まぐれに、冴えない女性を自分に夢中にさせてみたら、恋に落ちたのは彼の方だったのです。彼女はその店で媚薬を手に入れていたんですね。^^

「クルーエット夫妻の家」
19世紀に作成された設計図通りの家を建てた夫婦は、まるで19世紀の人間になってしまったようです。2人の心は家に乗っ取られてしまったのでしょうか。それで幸せなら構わないのでしょうが・・。

「おい、こっちをむけ!」
有名になることなく早世した作家の幽霊は、なぜ彼を評価していた評論家の前に姿を見せたのでしょう。この世に自分がいた証を残したいという必死の訴えが伝わってきます。

「もう一人の大統領候補」
大統領候補になった男は、どんなにずるがしこい少年だったことか。幼馴染が彼のエピソードを語ります。でも、語り手だって副大統領候補なんですよ。

「独房ファンタジア」
最後の望みとして独房に絵を描くことを許された死刑囚は、壁にドアの絵を描き始めます。もちろん、そこから脱走するなんていうオチではありませんよ。本書の中で一番好きな作品です。

「時に境界なし」
次々と行方不明になる捜査中の容疑者が、過去の写真や記録に登場しているのはなぜなのでしょう。警部はタイムトラベルを提唱する教授を問いただすのですが・・気の毒な結末です。

「大胆不敵な気球乗り」
近所のご婦人を連れて、自作の気球で夜の町を飛び回る・・というのは、妄想にすぎなかったはずなのですが・・。

「コイン・コレクション」
妻と倦怠期に陥った男が、別の女性と結婚していたかもしれなかった「パラレル・ワールド」を夢想します。別の世界のコインを手にすることが、鍵だったのですね。この種の物語は、ハッピーエンドにしてはいけないと思うのですが・・

「愛の手紙」
アンティークの引き出しの奥に見つけた、19世紀の女性からのラブレター。それに返事を書いて、前世紀から存在する郵便局から投函した青年は、何を目にすることになるのでしょう。時代を超えた、悲しい純愛の物語です。

2016/6