りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ロックイン(ジョン・スコルジー)

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世界中で猛威をふるった「パンデミック後」の世界。意識はあるのに体をまるで動かせない「ロックイン」という後遺症に陥った患者は、アメリカ国内だけでも400万人以上になっています。

彼らは、ロボティクスとネットワーク技術の発展によって救われました。脳に埋め込んだ発信装置で専用ロボットを遠隔操作し、その五感を体感することによって「日常生活」をおくれるようになっていたのです。要するに、見た目はロボットなのに中身は人間ということ。もう一種類の後遺症は「統合者」と呼ばれる生きた受信機化。しかし、他人の思考を受信して行動できる存在など、何をどう考えても複雑な問題を引き起こしそうです。

さてストーリーです。FBIの新米捜査官となったロックイン患者が、元統合者の女性捜査官とペアを組んで担当したのは、「統合者による統合者の殺人」と見える事件でした。実際の犯人は、統合者なのか。それとも利用者なのか。利用者は誰なのか。利用者による犯罪行為や自傷行為を防げるセイフティロックは、なぜ働かなかったのか。そもそも、これは殺人事件なのか。事件の背景には、ロックイン患者の処遇に関わる法律をめぐる陰謀があるのですが、やっぱりかなりややこしそう。

こういう世界では、人種や性差による差別が意味を失っていくのでしょう。しかし一方で、一般人とロックイン患者の間のヘイトクライムや、貧富の差も拡大されているようです。富裕層はカスタマイズされた新型ロボットを何体も乗り回せるのに対し、一般人が使うロボットでは広告をずっと見せられ続けるというくだりは、今のネットのようで笑えませんね。ついでながら、レンタカー会社でロボットのボディを借り出せるようになっているのは、物理的移動を省略できて便利そうです。

2016/5