りぼんの読書ノート

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地のはてから(乃南アサ)

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知床の語源は、アイヌ語で「地の果て」を意味する「シリエトク」だとのこと。わずか2歳で北海道に渡り、知床の過酷な環境の中で生き抜いた女性の半生をたどる物語です。

時代は大正期。株で失敗した父が作った借金のせいで、追われるように夜汽車に乗り込んだ一家。しかし、北海道への移民を促す宣伝とは異なり、知床の地は容易に人々を受け入れてくれません。この時代、無料で土地を手に入れることができた地域は、もうほとんど残っていなかったのですね。

生涯ダメ男だった父の死。母「つね」の再婚。義理の兄たちとの不和。幼い弟妹の誕生。過酷な自然の中で凍死・餓死と背中合わせの生活。逞しいアイヌの少年への憧れ。口減らしのため小樽での奉公。少女「とわ」にとって、雇主の家で見た「少女の友」などは文字通りの別世界でした。

恐慌で雇主が破産して知床に戻ってきた「とわ」にとって、長男が嫁を迎えた実家は、いつまでも住める場所ではありませんでした。親戚に勧められた相手と結婚したものの、覇気のない夫を心から愛することはできませんでした。それでも子供たちは生まれ、働き詰めの生活ではあっても、ようやく安定しつつあった時に・・戦争が始まるのです。

本書には著者が得意とするミステリ要素はなく、主人公の「とわ」も波瀾万丈の生活を送るでもなく、ただただ厳しい時代の中で懸命に生き抜く庶民たちの姿が描かれていきます。おそらく本書は、著者にとって「ドキュメンタリー」なのでしょう。「開拓の資料は意外に少なかった」そうです。「お年寄りは苦労話をしたがらず、体験は簡単に引き継がれない」と、著者は述べています。

2016/4