りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

道(白洲正子)

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「私の書くものはいつも旅が中心となっており、道を歩いて行く間に出来上って行く」。伊勢・大和の旧道、橋と石仏、そして比叡山の峰々を巡って、日本の美と文芸、自然と宗教に思いを馳せた作品です。名作かくれ里とも通じる所も多い、歴史紀行となっています。

「本伊勢街道を往く」
奈良から伊勢へ、阪奈国道を通れば1時間半の行程を9時間かけて辿りながら、著者の想いは古代へと翔びます。三輪から東に向かい、初瀬、榛原を経て伊勢へと至る道は、最初の斎宮とされる大来皇女が通った道なのでしょうか。さらには神代の昔、倭姫命天照大神の御杖代として大和から伊勢へと向かった、祖神巡行の道とも重なる道なのでしょうか。

「日本の橋」
骨董店で手に入れた白木の橋を描いたうちわ絵から、日本の橋への連想が広がっていきます。天橋立源氏物語夢の浮橋、宇治の橋姫、神話の天の浮橋、安倍清明の一条戻橋・・。

「春日(はるひ)の春日(かすが)の国」
笠置の麓から室生まで、今の添上郡山辺郡のあたりが「奈良の東山中(ひがしさんちゅ)」だそうです。石仏が多く、奈良平野部の「国中(くんなか)」とは言葉も風習も異なっているという東山中では、古代の春日氏の気配を感じるとのこと。大和に従ったものの、兄・佐本毘古が起こした反乱に組して夫の垂仁天皇を裏切った佐本毘売の伝説に、著者は思いを馳せるのです。

平等院のあけぼの」
日の出の光を受けて輝き出す鳳凰堂の姿が、平等院山号が朝日山であることを著者に実感させます。「鳳凰堂全体が虚空に浮かんで鳴動する」という、鳳凰堂が宙にたゆたう瞬間の描写は絶品です。

比叡山 回峰行」
比叡山・回峰行とは、比叡の山中を毎晩30キロずつ100日間歩き、満行の目安となる1000日を経るまで、およそ7~88年かけて完遂する、荒行中の荒行のこと。回峰行の行者を観察した著者は、「古代の自然信仰のありようが現代にも生きていること」を賛仰します。

他には、筑波の桜川で同名の能の狂女物を思い出す「桜川匂ひ」世阿弥の二曲三躰を解説する「能のかたち」、町田周辺の道祖神と地名をたどって往時の鎌倉街道を偲ぶ鎌倉街道を歩く」が収録されています。

2016/1