りぼんの読書ノート

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緊急速報(フランク・シェッツィング)

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2011年。ドイツ人ジャーナリストのハーゲンが手に入れたデータは、イスラエル情報機関の歴史の暗部に関わる資料でした。しかも、陰謀はまだ進行形で存在していたのです。表と裏の両方の情報機関から執拗に追われるハーゲンの逃走劇と、イスラエルの草創期から移民してきた2つの家族の歴史が、交互に語られていきます。

始めのころは、本書のテーマとユダヤ人家族の歴史の関わりがわからないのですが、次第に全貌が明らかになってきます。一つの家族の息子は、後にイスラエルの第15代大統領となる、アリエル・シャロンだったのです。彼は、ガザからの入植者撤退という「ハト派的政策」を打ち出した直後、脳出血で倒れることになります。

もうひとつの家族は、政府の入植政策が変化するたびに翻弄されてきた農民の一家です。シャロンと幼馴染であったエフダが彼に抱く友情は変わることはありませんでしたが、戦争で息子を失ったことでシャロンを責める妻や、右派の宗教指導者となった弟は、彼を恨むようになっていきます。そして、ハーゲンと行動をともにする若い女医ヤアルこそが、エフダの孫娘だったのです。

深海のYrr(イール)の著者による歴史ミステリですが、とにかく長い。この話に上中下巻あわせて1900ページもかける必要はありませんね。基本は現代の陰謀をめぐるミステリなのでしょうが、中盤では、イスラエル草創期からの入植者家族をめぐる大河物語を読んでいる気にさせられてしまうほど。

また、ドイツ人の著者がドイツ人読者に向けて書いた小説なので仕方ないのでしょうが、主人公がドイツ人である必然性も感じませんでした。イスラエルの若い世代から、ヒトラーのスローガンを掲げるネオナチが登場してきたとの指摘は、十分に衝撃的でしたが。

2015/9