りぼんの読書ノート

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マタタビ潔子の猫魂(朱野帰子)

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新人作家の登竜門であった「ダ・ヴィンチ文学賞」の第4回対象受賞作です。

主人公は、聖武天皇の時代から生きているという妖猫のメロ。現代日本にただ1人残っている「夏梅種(マタタビ)の家系」の女性・田万川潔子と巡り合って、同居中。ただし一族に伝わってきた伝承はすでに絶えていて、潔子自身は自分の素性や能力について何も知りません。

無口で地味な派遣OLにすぎない潔子は、28歳のロスジェネ世代。「憑き物筋」に特有の負のオーラが妖しいものたちを引き寄せ、苛められて辛い思いをするのです。しかし潔子の怒りがピークに達すると、メロの「猫魂」の憑依を受けて黒髪美女に大変身。退治された妖魔のエネルギーがメロの寿命を延ばすんですね。

登場する妖魔は、大食いの先輩OLに憑いた「鬼海星(オニヒトデ)」、超潔癖上司に憑いた「洗熊(アライグマ)」、多産の専業主婦となった学生時代の友人に憑いた「多産西洋蒲公英(セイヨウタンポポ)」、ブリッ子の後輩OLに憑いた「欧羅巴毛長鼬(フェレット)」。最後に登場するタヌキ以外は、外来種なのです。ペットとして輸入された末に捨てられたり、温暖化によって生まれ故郷から北上してこざるを得なかった外来動植物の恨みは、理解できますよね。

主人公が何者かの助けを借りて魑魅魍魎と戦う「退魔もの」は、ラノベやアニメやゲームに山ほどありますが、孤独で冴えないOLの日常生活と融合させた点が新味でしょうか。池井戸潤さんの経済小説や、海堂尊さんの医療小説、松井今朝子さんの花魁小説などの世界でも、こんなフォーマットが有効だったりして・・。^^

猫魂に憑依されているときの記憶はなく、憑りつかれる以外には何の取柄もなさそうな潔子でしたが、実は凄いパワーの持ち主でした。メロの猫魂が危機に陥った時に、隠れていたパワーはついに発揮され、物語はクライマックスに・・のはずでしたが、結局はアンチ・クライマックス。でも、そのユルサが、本書の魅力のようです。

2014/12