りぼんの読書ノート

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レッドスーツ(ジョン・スコルジー)

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25世紀。憧れの宇宙艦隊旗艦イントレピッド号に配属された銀河連邦の新任少尉ダールは、奇妙なことに気づきます。平均値を大きく上回る遠征任務。異常に高いクルーの死亡率。絶対に死なない上級士官たち。何でも解決できるけれど時間ギリギリにならないと働かない謎の装置。艦長らの目にとまらないよう隠れまわるスタッフたち。

そう。この宇宙船で起きていることは、20世紀の「スペースオペラ」の世界と似通っているのです。しかも怖ろしくできの悪いストーリー。このままでは、自分たちも「単に物語を盛り上げ主人公を目立たせるためだけに、たちまち落命する運命」と気づいたダールらは、「世界の仕組み」を変えるため、奇想天外な冒険に乗り出します。果たして彼らは「物語に支配されない自由」を手に入れることができるのでしょうか。

スタートレック・シリーズ」も、初期の作品はなかり荒っぽいストーリーだったようです。本書はそれらの作品にオマージュを捧げるものであり、分岐宇宙の原理をメタといっても人間原理といってもいいのですが、決してコミカルなだけではありません。本編のあとの3つのエピローグが素晴らしく、「生きる意味」を決して説教臭くなく考えさせてくれるのです。SFとしての各賞受賞も、そのあたりが評価されてのことなのでしょう。

2014/5