りぼんの読書ノート

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白熱光(グレッグ・イーガン)

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はるかな未来。銀河系周辺部は「融合世界」として異星人どうしの交流が進んでいます。DNA由来やソフトウェア由来の生命体が混在し、現実およびバーチャルの空間で暮らす満ち足りた世界が実現しているのです。しかし、超大質量ブラックホールを中心に有して、古い恒星群からなる密度の高いバルジを有する銀河系中央部に棲む生命体は、「孤高世界」として「融合世界」との交流をいっさい阻んでいます。

本書の奇数章は、「孤高世界」からの使者によって、未知のDNA基盤生命体の存在を知らされた冒険家たちが、銀河系中心部を目指す物語。未知のバクテリアが付着した岩石をたどって、はるか古代に宇宙的災厄を蒙った知的生命体が種を保存すべく多数の「方舟」を発射させたとの仮説を立て、ついに中性子星に囚われながら生き延びている種族の発見に至ります。

偶数章は、「スプリンター」という小天体に住む種族が、危機の到来を前にして物理学の体系を編み出し、対策を講じていく物語。これが感動的なのです。地動説から天動説へ、そして重力を発見して天体物理学や相対性理論の発見に至る過程が素晴らしい。しかも対峙すべき「危機」とは、ブラックホールに落下中の降着円盤を回避するという恐るべき課題であり、そのためには「スプリンター」の軌道を変えなくてはならなかったのです。タイトルの「白熱光」とは、ブラックホール周辺から発せられる光のことでした。

最後まで出会うことのない2つの物語はどう結びつくのか。それこそが本書の醍醐味です。「孤高世界」がどのように誕生して、どのような「行動原理」を有し、なぜ「方舟」の発見を依頼したのかまでを読み解いた読者は、深い感動を得ることでしょう。最後は、「文明レベルの異なる接触の際の倫理」も問われますが、実はそれこそが「孤高世界」と「融合世界」との関係として、はじめから提示されていたテーマなのかもしれません。

2014/5