りぼんの読書ノート

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岳飛伝 4(北方謙三)

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この巻は、梁山泊と講和して30万の大軍で南進を開始した金軍と、岳飛軍との戦闘が大半を占めています。ともに楊令に敗れたことでひとまわり成長した兀朮(ウジュ)と岳飛の戦いは壮絶ですが、対騎馬戦の新兵器である長刀を備えた岳飛が金軍を押し返します。

しかし南宋では、宰相・秦檜を中心に、岳飛に対する陰謀も進行していきます。中原の漢民族を金の支配から解き放つとの使命感を抱いて、開封府の奪還を狙う岳飛。国力充実以前の本格戦争は南宋を滅ぼし中原の分裂を招きかねないとの危機感を抱いて、停戦の機を探る秦檜。この2人の思想は相容れないものがあるのです。

戦闘の埒外にある梁山泊では、若返りと世代交代が一段と進行。南方メコン流域の開発に携わる秦容のもとへ向かう退役者に同行して視察に赴いた李俊は、北進を封じられた後の南宋が南方へと食指を伸ばすリスクを感じるのですが、おそらくそこまで描かれることはないのでしょう。

西域から日本の十三湊や秦容のいる南方までの物流網を作り上げた梁山泊は、海を領土とした貿易国家ともいえるものになっています。しかし、それらはやがて領土的国家の中に解消されていくべきもののようにも思えます。若い世代の間では「志」に代わって「夢」という言葉も登場してきました。封建制的な体制を超えて、近代的な思想やネットワークを担っていこうとする「個の力」が、歴史の中でどのように試されていくのか、著者の構想の行き着くところを見届けようと思います。

2013/12