りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ぼくのともだち(エマニュエル・ボーヴ)

イメージ 1

1924年の作品ですから、第一次大戦後のパリ。戦争で負傷して傷痍軍人年金で暮らしている主人公のヴィクトール・バトンには友人がいません。「孤独がぼくを押し潰す」と感じて「ともだちのためには、自分のすべてを投げ出してもいい」とまで思い、日々街を彷徨って「ともだち候補」を探しているのです。そんなバトンの「ともだち作り」の顛末は・・。

一晩だけの関係を持った女性。借金を申し込んだ男性。自殺の道連れを望んだ水兵。彼を哀れんでくれた金持ちの実業家。バトンは次々と失敗し続けます。そのはずです。問題はバトン自身にあるのですから。彼が「ともだち」に求めるのは、自分を惨めな思いにさせず、嫉妬心を抱かせない相手。つまり、自分よりも幸せではなく、自分を一番大切に扱ってくれる相手ということなんですね。それじゃあ、誰も友人にはしたくないだろうな。彼の不器用な自意識過剰ぶりが滑稽で悲しい作品です。

20世紀前半には人気作家だったという著者は、戦後のサルトルカミュボーボワール、マルローらのアンガージュマン文学の陰に隠れて、忘れられた存在だったそうです。「政治の季節」が終わった1970年代後半に再評価されたというのは、いかにもフランス的なユーモアとペーソスのみならず、イデオロギー性がなかったせいかもしれません。

2013/12