りぼんの読書ノート

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八年後のたけくらべ(領家高子)

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1896年(明治29年)に24歳で亡くなった樋口一葉の、没後100年というタイミングで書かれたオマージュ小説です。一葉の代表作であるにごりえたけくらべを再構成した2作品には、著者の一葉に対する深い尊敬の念を感じます。一葉の本編に付け加えるべきものは何もない・・ことは著者自身わかっているはずですが、「あえて」ですね。

「お力のにごりえ
本編では詳しく書かれなかったお力の転落の背景に、大胆に踏み込んだ作品です。お力が、今は零落した以前の馴染客・源七の狂気に飲み込まれてしまう数時間前のこと。銘酒屋「菊の井」の2階の窓敷居に体をはすにして浅く腰掛ながら、ぼんやりと往来を眺めていたお力の脳裏を去来していたのは、夢物語を語りながら結果的に彼女を食い物にした、幼馴染のダメ男の思い出でした・・。

「八年後のたけくらべ
15歳で比叡山に修行に出てから8年ぶりに東京下谷区大音寺前に帰ってきた信如は、今は吉原の売れっ子となっている初恋の少女・美登利と再会を果たせるのでしょうか。一方で喧嘩相手だった金貸屋の息子・正太は青年実業家となっていました・・。信如の友人として『日本之下層社会』を著した横山源之助を登場させるあたりに工夫を感じます。資本主義化の進む明治後期は、もはや『たけくらべ』の世界など存在し得ない時代になってしまったのでしょう。

他に、妹・邦子の視点から一葉の葬儀の朝を描いた「葬列」、姉の死後15年たって出版された「樋口一葉全集」を胸に抱えて、在りし日の姉と半井桃庵、斎藤緑雨幸田露伴らとの関係を偲ぶ「日記」、夫との離別を決意しようとする現代女性が一葉を読み解く「一葉、夏の日々」が収録されています。

2013/8