りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2013/2 ブラックアウト(コニー・ウィリス)

瀬名秀明さんが「ルパン像の再構成」を試みた3部作『大空のドロテ』の第1巻を読んで、「ルパン・シリーズ」をきちんと読んでおこうと決意しました。読み始めてみたら、これが面白い。ルパン3世のキャラは、オリジナル・ルパンの影響をかなり受けているんですね。

今月1位としたコニー・ウィリスさんの新作は長い物語の前編でしかないのですが、後半への期待も込めて「★★」評価。彼女の作品は、仮に起承転結がなくても、その過程だけでも読んでいて楽しいのです。もちろん前半の仕掛けが後半になって利いてくるはずです。
1.ブラックアウト(コニー・ウィリス)
未来のオックスフォード大学史学生による時間旅行シリーズ第3弾では、第2次大戦下のイギリスに送り出された3人の学生が、それぞれ思わぬトラブルに巻き込まれて未来へと戻れなくなってしまいます。歴史改変の罪を犯したのか。システム障害なのか。それとも単なる手違いなのか。そもそも彼らが体験していることは「史実」通りの出来事なのか。「知っていたはず」の出来事に異常が起きたときに勇敢な行動を取れる者が英雄なのです。戦時下でも、9.11テロでも、SF小説内でも・・。

2.金の仔牛(佐藤亜紀)
18世紀初頭のパリを舞台にしてマネーゲームに狂乱し翻弄される詐欺師たちの物語は、現代社会にも共通していますね。謎の老紳士によって青年実業家に仕立て上げられたアルノーでしたが、イザという時には犠牲される役割だったのです。果たしてアルノーと妻のニコルの運命は・・。老獪な投資家や、故買屋や、サディスト貴族や、犯罪者の元締めなどが入り混じって演じるバブル悲喜劇をご堪能あれ。

3.タイガーズ・ワイフ(テア・オブレヒト)
「自分の胸にしまっておくべき物語」であっても、「物語は伝えられなければ」なりません。この矛盾を克服した者だけが作家となれるのでしょう。女医ナタリアは祖父の死の知らせを聞いて、謎めいた2つの物語を思い起こします。子どもの祖父を大人にした「トラの嫁」の物語と、老いた祖父を子どもに戻した「不死の男」の物語とは、いったい何を意味していたのでしょう。ボスニアの戦火を経験した若い著者の、作家への決意を感じさせてくれる作品です。



2013/2/27