りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

あぽやん(新野剛志)

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「あぽやん」の「あぽ」は「APO」すなわちairportの略語であり、「あぽやん」とは旅行代理店の中で空港勤務する人のことを指しているとのこと。空港に集合するツアー客の旅程を確認してチケットを渡し、送り出す役目です。ただ空港勤務というのは閑職らしく、ベテランになって社内で行き場のなくなった人が送り込まれるところのようなんですね。

本書の主人公の遠藤慶太はまだ29歳で、本社の企画課から成田空港支所に「飛ばされて」きたという設定で、空港勤務で長くすごす「あぽやんにはならずに本社に返り咲く」との思いを持っています。

そんな慶太が空港で遭遇するのは、再入国許可のない日系ブラジル人少女の出国判断、絶対に出発しようとしない老婦人の秘密、パスポートを忘れて旅立てない少年の世話、予約が消えて旅立てない新婚夫婦の取り扱い、無理を押し通そうとする本社営業の横車など、数々のトラブル。お客様を目の前にしてフライト出発までの短時間での解決を迫られていく中で、慶太はお客様を満足させることの大切さを学んで成長していくのです。

このような成長小説には指導役とライバルがかかせません。本書では、焦る慶太に「笑って、笑って」と手鏡を差し出す先輩の今泉や、定年直前で普段は影の薄い住田所長が指導役であり、はじめから空港採用で本社のいうことなど聞かない一徹な同僚の堀之内や、同期入社で要領よく出世街道を歩む本社営業の須永がライバル役になっています。

しかも部下や同僚の大多数が女性で契約社員も多い職場ですから、恋愛問題やリストラ問題も起きて、小説やドラマにするには格好のテーマなのかもしれませんね。同じ空港でも脚光があたる航空会社ではなく、旅行代理店の空港勤務部署を題材とした時点で、本書は半ば成功したのでしょう。

第139回直木賞の候補作となり、続編も出版されたとのことです。

2012/10