りぼんの読書ノート

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ハゲタカ(真山仁)

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今では「外資系ファンド」という言葉も耳新しくありませんが、「死に体」となった企業を買収・転売することによって利益を稼ぐ欧米流のドライなビジネスは、当初、日本型経営にとっては異質な集団と思われたことは想像に難くありません。

本書は、ニューヨークの投資ファンド運営会社会長に見込まれて日本法人責任者となった鷲津政彦が、バブル崩壊後の日本で企業買収・再生に辣腕を振るう物語ですが、小説的な人間関係も描かれています。

鷲津の最初のビジネスは「バルク・セール」から始まります。不良債権問題に手をつけざるをえなくなった銀行が、融資時の不祥事を隠すために正常・不良の債権をごちゃまぜにして第3社に売却するのですが、裏事情を知った鷲津らは安く買い叩いて転売し利鞘を稼ぐのです。債務企業の清算を辞さない強行回収は、ぬるま湯のような日本的商慣習につかった企業に冷水を浴びせますが、これなどは淘汰されるべき企業が消えるまでの過渡的なものにすぎません。彼らの本業は、瀕死状態の企業を買収して再生した後に転売する「ターンアラウンド・ビジネス」にあるのです。

ゴルフ場、老舗温泉旅館、公私混同著しい同族会社などが次々とターゲットとなって行く中で、大手証券会社や大手地銀が倒産する事態となり、ファンドビジネスは一層活躍の場を広げていくのですが・・。

人間ドラマのほうは、鷲津と対照的に「良心的なターンアラウンド・ビジネス」を標榜して、友人が経営する地方スーパーの支援に乗り出した元大手銀行員の芝野や、日光の老舗ホテルのオーナーの松平貴子との関係、さらには鷲津に取り込まれていく大手銀行幹部の飯島との因縁という形で描かれますが、ビジネス部分と比較した場合、そちらの完成度はそれほどでもないかも・・。

ともあれ本書が突きつけるものは、「ハゲタカ・ファンド」ビジネスの異質さではなく、バブル期に奢り高ぶって腐敗し、リスク管理を忘れてしまった日本という国のあり方にほかなりません。鷲津が飯島に言い放つ「それは船場の老舗企業でも当然でしょう」の言葉は象徴的です。一読の価値がある作品です。

2012/5