りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

第四間氷期(安部公房)

イメージ 1

中学生の頃に国語の先生から勧められて読んだ本です。当時は「教科書の小説」がつまらなかったせいで、むしろ「小説嫌い」だったのですが、この本で小説のおもしろさを知りました。

20年以上たって読み返してみると・・あれから色んな本を読んで「おもしろい小説」に慣れてしまったせいでしょうか。テーマは今でも新鮮ですが、展開や表現は並であり、コンピューターの延長線上にある予言機械や、獲得形質が遺伝して生まれる水棲人などのガジェットは古びてしまいました。残念です。

政府予算で予言機械を開発した勝見博士は、政治関連の研究テーマを禁じられたために個人レベルの予言に利用しようとしますが、無作為で選んだ対象男性が殺されてしまい、データ収集のために男を尾行していた勝見にも疑いがかかってきます。さらに謎の脅迫電話がかかってきたり、妻が堕胎した胎児が持ち去られるなど不思議な事件が相次ぎます。果たして事件の真相は何なのでしょうか・・。

本書のテーマは、未来に対する予言ということにどう向き合うかということにあります。著者は「未来は本来的に残酷であるが、その残酷さの責任は断絶を肯んじようとしない現在の側にある」と本書について述べています。

機械が語る「大半の陸地が水没した未来に生きる水棲人」という予言にどう向き合うか。ギリシャ悲劇の時代から人間につきまとっている課題ですね。予言を否定して未来を裏切るのか、予言を肯定することによって現在を裏切るのか・・。

「現在と未来のどちらを優先させるのか」という意味では、現代の環境問題や年金問題などにも共通する課題であるように思えます。

2012/4