りぼんの読書ノート

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東天の獅子 第2巻(夢枕獏)

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第2巻では一転して、後に講道館のライバルとなる柔術王国・九州と千葉の柔術家たちの凄まじさが描かれます。

まずは警視庁の武術指南役となった、久留米・良移心頭流の中村半助。同じ久留米・関口新々流の仲段蔵を破った熊本・竹内三統流の佐村正明との死闘は凄まじい。極限まで延びきった筋が切れ、骨が折れ、死に至る絞め技にかけられても降参など考えない古流柔術の真剣勝負には命がかかっています。

その勝負を見て「自分なら佐竹を3度は殺していた」とつぶやく武田惣角とは、どれほどのものなのか。彼は西郷四郎と同じ会津御式内を学び、さらに琉球手を身につけています。いかなる時も「戦場での殺し合い」を念頭において生涯をすごした人物なんですね。

次いで舞台は千葉に移って、揚心流戸塚派の大竹森吉、好地円太郎、照島太郎らのこれまた凄まじいエピソードが綴られた後に、警視総監・三島通庸が主催する警視庁武術試合の組み合わせが発表されて本巻は終わります。

その対戦は、「講道館山下義韶vs起倒流・奥田松五郎」、「講道館・宗像逸郎vs中村半助」、「講道館横山作次郎vs照島太郎」、「講道館・西郷四朗vs好地円太郎」。第3巻では、これらの対戦が余すところなく描かれるはず!

ところで当時の柔術は、打撃も絞めも許される「総合格闘技」なんですね。投げ技は寝技や絞め技に持ち込むための過程であり、投げだけで決着がつくことはなかったというのです。講道館だけは、野外で固い地面や岩に投げつけられれば戦闘能力は失われるとの理由で「投げ技の1本」を認めていたというのですが、強烈な投げで決着するというルールを警視総監に認めさせたのは、加納治五郎の政治力でしょうか。当時の他流派との試合は、全て「異種格闘技」だったわけです。

2012/4