りぼんの読書ノート

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東天の獅子 第1巻(夢枕獏)

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明治時代、講道館創世期の格闘小説です。とにかくおもしろい!

著者によると、①講道館創成期の物語、②明治大正における外国人格闘家との異種格闘技戦、③コンデ・コマこと前田光世の物語、④前田以外の海外へ渡った日本人格闘家の物語という4部構成で、とりわけ③のアメリカ・ブラジルを転戦した前田光世を「東天の獅子」として書くつもりだったところ、①の部分が膨らみすぎて本書になったとのこと。

第1巻では、加納治五郎による講道館創設と、後に四天王と呼ばれる実力者たちが加納の許に集まってくるまでが描かれます。今にして思えばこの時代に加納治五郎という人物が現われたことが、今や世界競技となった柔道のみならず、格闘界全体に大きな影響を残したのですね。

東大に学びながら、生来の虚弱を克服すべく天神真揚流と起倒流という柔術を学んだ加納が、文明開化の世で不要とされ滅んでいく運命にあった柔術を、新しい時代にこそ必要と確信し、それまで門外不出だった各流派の秘伝を総合して、足さばき、重心の崩し方、投げ方などの理に適った教授法を確立し、段位制を導入したことが、全ての出発点だったようです。

加納自身、風に例えられるほど自然な組み方の体現者であり、各流派の技を自在に取り入れる天分に恵まれた天才的な格闘家として描かれますが、やはり強かったのは四天王なのでしょう。

加納とともに現代柔道を作り上げた、一番弟子の富田常次郎。小柄ながら柔道の極意を一身に体現し、「姿三四郎」のモデルとなった西郷四郎。岩や山に例えられるほど不動の巨漢で、「鬼」と呼ばれた横山作次郎。天分は西郷や横山に及ばないながら、努力によって第一人者に上り詰めた山下義韶

中でも西郷と横山の実力が隔絶していたようですが、他流派も恐るべき人材を輩出しており、柔術や唐手との壮絶な闘いが描かれていく、第2巻以降が楽しみです。加納に投げられながらも三角締めで勝利した会津武田惣角と、同郷・同門の西郷四郎の対決はあるのでしょうか?

2012/4