りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ワン・モア(桜木紫乃)

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安楽死スキャンダルに巻き込まれて市民病院から離島の診療所に赴任した37歳の女医、柿崎美和が、離島での浮気相手の年下の漁師の家庭を破壊し、身重の妻から罵られても平然としているのは、彼女自身が「漂うくらげ」となってしまっているから。

そんな美和の人生が、個人病院を継いでいた幼馴染みの滝澤鈴音からの救難信号で動き始めます。肝臓癌にかかって余命半年と宣告された鈴音から、病院を継いで欲しいと頼まれたのです。周囲も本人も諦めている中で「わたしが治します」と宣言する美和。まさに、ヒロイン誕生の瞬間!

どこか斜に構えた美和と、優等生を貫き続ける鈴音という、それぞれ異なるタイプながら芯の強い2人の女医を中心に進んでいく連作短編集では、「おとなの関係」が描かれます。

嫌いになったからではなく、病院開業時の妊娠と堕胎を秘密にしていたことから、離婚に至った元夫の拓郎と、余生をともに暮らしたいと願う鈴音。その願いにとまどう拓郎。鈴音が独立するときに市民病院から滝澤医院に移ってきた49歳の看護師・浦田寿美子の、元患者に対する密やかな恋心。後に病院の看護助手となる詩緒と書店店長の不器用な恋。医者への道をあきらめて放射線技師となった、女医たちの同級生・八木の屈折した思い。

鈴音が飼っているミニチュアシュナウザーの子犬たちが、生と死に向き合う男女たちを繋ぐようになるというのも悪くない趣向です。飼い主たちが、子犬たちにつけた名前もそれぞれ象徴的ですしね。^^美和のスバル、鈴音のミラクル、八木のラッキー、浦田のベニ、詩緒のペッパー。

「人間だけ描いても背景だけ描いてもいけない」と言う、開拓移民3世で釧路在住の著者の作品の舞台は、もちろん釧路です。

2012/2