「検屍官ケイ」シリーズに期待しなくなってから、だいぶ経ってしまいました。シリーズ第18作となる本書は、初めて明かされるケイの過去や意外な真犯人、さらには信頼していた者の裏切りなど、初期に戻った雰囲気の作品となっていて高水準だとは思うのですが、過去の作品を越えないと高評価されないのでしょう。
ケイが責任者に就任した法病理学センターで、不可解な事件が起こります。散歩中に急死した青年の遺体から、翌朝になって出血が確認されたというのですが、もし、まだ生きている青年をモルグの冷蔵室に放置したのなら、前代未聞の大失態。
しかも長年のケイとの関係から副局長に抜擢されて、ケイの留守中を預かっていた副局長のフィールディングは、別の男児殺害事件でも捜査をミスリードするような断定を行なうなど、次々に疑惑が浮上してくるなかで失踪してしまいます。
本書ではケイ・スカーペッタの過去の一部が明らかにされます。軍の奨学金を受けて医学教育を受けたケイは、軍務を果たす義務があったのですが、南アフリカで軍の陰謀に加担させられたことがあり、その後に早期除隊を認めてもらったというのです。
ではこの一連の事件は、軍も関係する法病理学センターからケイを追い出すための陰謀なのでしょうか。それとも軍の研究施設から生まれ出た何かを隠蔽するための作戦なのでしょうか。夫ベントンは、姪ルーシーは、長年の僚友マリーノは、今でも信頼を置ける相手なのでしょうか。
盛りだくさんですよね。かつてのルーシーを思わせる若い天才たちが、マッド・サイエンティスト集団へと変貌しても当局は有効な手を打てないのではないかとの懸念は、SFの世界だけのことではないのかもしれませんし、フィールディングの過去から現われてきた娘のドーン・キンケイドはこの後も登場しそうです。
2012/2