りぼんの読書ノート

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スポーツマン一刀斎(五味康祐)

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柳生武芸帳が素晴らしかったので、コメディタッチの本書も読んでみました。この本は、独立して発表された『一刀斎は背番号6』という短編を第一部として、長い続編を書き足したものです。

第一部の完成度は高いですね。奈良の山奥で暮らしていた剣豪・伊藤一刀斎の末裔が、後楽園球場での素人参加競技に参加し、当時の巨人の大エース・別所から大ホームランをかっとばしたことから巨人に入団。守備にはつきませんが、八双の構えからの代打ホームラン率100%という驚異のバッターになってしまうんです。

昭和30年代の頃ですから、日本の野球の実力は大リーグとは圧倒的な差がある中でむかえた日米野球がラストシーン。大リーグの豪腕エースの前にさすがの一刀斎も2球連続の空振り。失望の声も起き始める中で、一刀斎は目隠しを要求。心眼で打った打球ははるか場外へ・・という物語。若き日の菅原文太主演で、稲尾、中西、田宮ら、当時のプロ野球選手も大勢登場した映画になっているとのこと。

でも、第2部はかなり品下がってしまいます。一度は引退した一刀斎が、日本球界のためにもう一度引っ張り出されるのですが、その時の条件が、「多くの一流女優と手合わせして色の道を究める」というとんでもないものなんです。なんでも他人に自分の精気を放ってカツを入れるという、武道の極地を究めるために必要な修行というのですが・・。

山本富士子岡田茉莉子有馬稲子ら実在の大女優たちを実名で登場させたことから、抗議を受けて連載は未完で終わったというのですが、当然ですよね。その後、作品は一応完結させられて本書となります。

第2部でのライバルは、宮本武蔵の末裔にあたる、二刀流ならぬ両手投げのピッチャーですが、武道の果し合いは一度限りというのが原則ですから、何度も対決させないように気を使ったためでしょうか。「場外」の場面が大半なんですね。

まぁ、次々と登場するライバルとの対決だけでは、後世のコミックと同様になってしまうので仕方ないのでしょうが、第一部だけで終えておくべき作品だったかもしれません。

2011/6