りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2006/8 ゲド戦記(ル=グィン)

8月は、東西の良質なファンタジーを読むことができました。『ゲド戦記』と『空色勾玉』では、知名度に雲泥の差があるけど、底に流れる歴史観や死生観では、荻原さんも負けてはいない。想像だけで、ひとつの世界を作り上げてしまうファンタジーの中には、結局、作家の全人格が現れてしまうものなのでしょう。
1.ゲド戦記ル=グィン1 影との戦い  2 壊れた腕輪  3 最果ての島へ  4 帰還  5 アースシーの風  6 外伝
言わずと知れた、3大ファンタジーのひとつですが、一番奥が深い。映画化で話題になりましたが、作者のコメントは批判的ですね。「単純化された問い」を設定して「単純化された解答」を用意するのは、映画という表現形式においては、仕方ないことなのかもしれませんが・・。映画を観て「良かった」と思った人にも、「イマイチ」と感じた人にも、原作をお勧めします。

2.空色勾玉 (荻原規子)
古事記に題材を求めた、ジャパニーズ・ファンタジー。死によって女神と隔てられてしまった男神が望んだことは、世界を、豊葦原国が産み落とされる前の生も死もない混沌に戻し、2人してはじめからやり直すことでした。死を肯定的に捉える生死観も世界観もしっかりしているし、古代史への深い造詣に基づいた巧みなストーリーもお見事です。

3.Lady, Go (桂望実)
ネクラで自分を好きになれない女の子が、キャバクラ嬢に大変身! お客さんに気に入ってもらえるように、悪戦苦闘を重ねます。キャバクラで働くなんて、ちょっとした異次元体験ですね。彼女はちょっぴり自信をつけて、普通の世界に戻っていくのです。この人、『県庁の星』の時より、はるかに上手になりましたね。

4.女帝 (シャン・サ)
悪女の典型といわれる、中国史上唯一の女性皇帝・則天武后。彼女は本当に、悪政を行った非情の簒奪者だったのでしょうか。フランス在住の中国人女性作家が、正史に挑みます。男性によって書かれた歴史を書き直せるのは、結局、女性なのかもしれませんね。史書には珍しく一人称で書かれた、詩情あふれる文体も美しい。

5.秀吉の枷 (加藤廣)
70歳を過ぎて鮮烈なデビューを果たした加藤さんの第二作。前作『信長の棺』で、同時代の歴史家に追究させた歴史の謎を、今度は、当事者である秀吉の視点から読ませてくれます。書き尽くされた感のある「戦国物」に新しい視点を持ち込んだ加藤さん、まだまだお若いです。^^




2006/9/5