りぼんの読書ノート

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吉原十二月(松井今朝子)

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吉原手引草で葛城花魁の失踪事件があった舞鶴屋を舞台に、楼主・庄右衛門が、器量も気性も正反対ながら、ともに廓を代表する存在となった2人の花魁の物語を年季明けまでの十数年間を、1年の各月にたとえた年代記形式で綴っていきます。

小夜衣(さよぎぬ)は、白磁の肌と黒々とした眼を持ち、臈たけた風情で艶然と微笑み、一世を風靡した花魁。何事もそつなくこなし、自分の生き方をしっかり見据えた女性です。

胡蝶(こちょう)は、機転が利いて闊達。はっきりした目鼻立ちとさっぱりした気性とでお武家に多くの贔屓をもった花魁。しっかりしているようでも、実は「可愛い女」タイプ。

何事にも対照的な2人は、禿の頃から互いを激しく意識し、新造時代には意地を張り合い、花魁となってからのエピソードにも事欠きません。

小夜衣は、ダメ男をしっかりさせ、得意の手紙で意志をはっきり伝え、得意の絵を用いておねだりまで上手にしちゃうんですね。まさに自立した女性。でも、そんな小夜衣が起こした大事件は、客の子を身ごもって産んでしまったこと。

胡蝶には、自信を持たせる必要がありました。彼女を成長させたのは、嫌っていた客人が実は彼女に父親のような愛情を注いでいたと気づかされたこと。でも、そんな胡蝶が起こしたのは、ひとつ間違ったら成敗されるお武家との駆け落ち事件。

果たして大輪を咲かせたのは、どちらの花魁だったのでしょう。
女としての幸せを掴んだのは、どちらの花魁だったのでしょう。
互いに意地を張り合った2人は、実は心を許しあった仲だったのでしょうか。

ご安心あれ。この物語は悲劇とはなりません。田沼バブル時代に花開いた、絢爛たる花魁文化を楽しめる作品です。

2011/4