りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

昼の家、夜の家(オルガ・トカルチュク)

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かつてのドイツ領で、チェコとの国境に接するポーランドの小さな町ノヴァ・ルダは、「存在の境界でみじんも動かずに、ただありつづける町」。そこに移り住んだ語り手の女性が、町にかかわるさまざまな物語を綴っていきます。

111もの断片的な物語は、語り手の日常生活であり、過去と現在の住民の記憶や夢や奇妙な行動であり、町に伝わる伝説であり、料理のレシピであり、不思議な占いであり、ひとつひとつは無関係なようであっても、全体として「土地の記憶」とでもいうようなものが浮かび上がってくるのです。

愛くるしかった少年マレク・マレクが自殺するまでの物語や、かつて町の住民だったドイツ人ペーターが町を再訪してポーランドチェコの国境上で亡くなる物語や、美貌と引き換えにキリストの顔を得て磔になった聖女クマーニスの物語や、後に聖女の伝説を綴る、女性になりたかった修道士パスハリスの生涯の物語や、大戦中に人肉を食べて狼化妄想に取りつかれたエルゴ・スムの物語など、「死」にまつわる物語も多いのですが、不思議と明るい。

「土地の記憶」の文脈においては、「死」は終焉ではなく、再生を前提としたものにすぎないからなのでしょう。しばしば登場するキノコもまた、そのイメージの醸成に役立っています。

タイトルにある「昼」は「意識の世界」であり、「夜」は「無意識の世界」です。人間の意識は、夢や意識下の世界から影響を受けていて、それらはまた町や土地という「無意識の世界」から影響を受けているんですね。不思議で幻想的な物語世界を独特の語り口で紡ぎ出された、良質の小説です。

2011/3


P.S.
今日ようやく水道が復旧するようです。でも調査中の下水はどうなっているんでしょう。日経新聞の全国版に浦安の被災地の様子が紹介されていました。一戸建てエリアの被害は大きいですね。市内でも被害状況・復旧状況に大きな差が生まれつつあるようです。