「塩が世界を埋め尽くす塩害の時代」との紹介からバラードの『結晶世界』のような作品をイメージしていましたが、人間が「ロトの妻」のように次々と塩のオブジェになってしまうんですね。『空の中』と『海の底』と合わせて「自衛隊3部作」となる、著者のデビュー作です。
本書のテーマはズバリ、恋愛と世界を天秤にかける選択。恋人を失う代わりに世界が救われるのと、世界が滅びる代わりに恋人と最後を迎えるのと、どちらを選ぶのか・・と言うと少女趣味の恋愛小説のようですが、本書の背景にあるのは阪神淡路大震災だそうです。だから本書で描かれる喪失感にリアリティがあるのか・・。
ストーリーはシンプルです。塩害で都市機能が崩壊した日本で、両親を失った女子高生・真奈と、ある事情で自衛官を辞した秋庭とが奇妙な同居生活を営むうちに恋心を抱くようになり、やがて秋庭は塩害を排除するために決死の攻撃に・・というだけの物語。
ひよわだった真奈が、「たったひとりが手に入れば世界が滅びてもいい」と、恐ろしいほど正直な自己中心的な想いで秋庭の任務を止めようとするのですが、その一途な想いが、秋庭の無事な帰還を信じる強さに変わっていくんですね。一歩間違えると「戦争中の銃後」なのですが、不思議な天才・入江をはじめとする多彩な脇役と、現代的なエピソードによって救われています。
2011/2