りぼんの読書ノート

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絵で見る十字軍物語(塩野七生)

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イタリア・ルネサンス研究からはじまって、『コンスタンチノープルの陥落』からの「東地中海3部作」をものし、一転して「古代ローマ」に遡って歴史をたどってきた塩野さんの関心は、「中世」に移ってきたようです。

塩野さんはローマ亡き後の地中海世界南欧キリスト教世界と北アフリカイスラム世界の千年間の対決を書き終えた後で、北欧のキリスト教世界と中近東のイスラム世界の対決である十字軍に、順番がまわってきたとおっしゃっています。

本書は3部作となる『十字軍物語』の序曲のような位置付けになります。19世紀に出版されたフランソワ・ミショーの「十字軍の歴史」に挿絵をつけたギュスターヴ・ドレの画をメインに据えて、塩野さんの手によるエピソード説明と地図をつけたもので、歴史的な背景などの詳細な説明はありませんが、十字軍の全史を概括するのに適していますね。

本書では、1096年の第一次十字軍から1270年の第八次十字軍までだけでなく、1291年の十字軍国家の消滅を経て、1453年のコンスタンチノープルの陥落、1493年のグラナダ陥落、1571年のレパントの海戦でまでが綴られています。ついに歴史が一巡りして、塩野さんの初期の著作に追いつきました。73歳になられた塩野さんにとっての最後の大作となるのかもしれません。

下地がキリスト教徒の手による作品なので「偏向の有無」が気になるところですが、それほど気になるものでもありません。塩野さんも「ミショーの立つ位置が十字軍べったりであったら、ドレも十字軍最大の敵であったサラディンを、ああも美しく描けなかったであろうし、十字軍側きってのヒーローであったリチャード獅子心王を鋼鉄製のかぶとに隠れた顔でしか表現しない、ということもなかったにちがいない」とコメントされていますし。^^

これから順次発刊される本編の楽しみが増しました。

2010/12