りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

いつか陽のあたる場所で(乃南アサ)

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この人の本は、刑事・音道貴子シリーズしか読んでいなかったのですが、魅力的な人物が登場する新シリーズというので、手にとってみました。

主人公は2人の女性です。小森谷芭子29歳と、江口綾香41歳。ひとまわりも年齢の違う2人の共通点は、なんと元前科者であるということ。刑務所で知り合った関係なんですね。

芭子は学生時代にホストに貢ぐ金を得るために犯した昏睡強盗罪で、綾香は自身と子どもを父親の暴力から守るために夫を殺害した罪で、服役していたのですが、罪をつぐなった今は2人とも普通の人間として静かに暮らしています。もちろん誰にも言えない過去であり、元犯罪者が普通に暮らしていくのは大変なこと。芭子はマッサージ治療院で、綾香はパン屋でパートをしているのですが、経済的には苦しいし、将来の展望もなかなか見えてきません。

では、こんな2人の物語のどこが、読者をひきつけるのでしょう。ひと言で言うと、そんな2人の間に交わされた深い友情なのかと思います。不器用で純情で慎重な芭子と、明るくてしっかり者なのにどこか抜けている綾香とが不思議といい関係なんですね。

大多数の人は犯罪者となる前に踏みとどまるのに、一線を越してしまった自分たちは何が違うのか。意志の弱さか、誘惑への脆さか、運や要領の悪さなのか、単に愚かなだけだったのか、2人がそのあたりを深く考えているのも本書の魅力なのでしょう。家族から縁を切られた芭子が、「事件を起こした時に自分はまったく家族のことなんか考えてもいなかった。自分が先に家族を捨てていたのだ」と気づく部分は感動的であり、本書の山場となっています。

谷根千という東京の下町が舞台であり、頑固な老人や、親切なお婆さんや、噂好きなおばさんたちに囲まれているというのも、2人が自分たちを見つめ直すのに適した環境なのかもしれません。そんな2人に未来はあるのか。この先も気になるシリーズとなりそうです。

2010/12