りぼんの読書ノート

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カリフォルニアの炎(ドン・ウィンズロウ)

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カリフォルニアからメキシコ、中南米を舞台にして、麻薬ビジネスとの戦いを圧倒的な筆致で描いた最新作犬の力に惹かれて読み始めた作家ですが、「ニール・ケアリー」のシリーズはおもしろかったものの「ちょっと違う」感じがありました。この作品は、両者の橋渡しをする作品のようです。ひたむきな主人公像と、幾重もの裏切りと罠の存在はどの作品にも共通しているのですが、犯罪者サイドの描き方が深くリアルになっていくんですね。

本書の主人公は、火災保険会社の保険査定人ジャック。もともと腕利きの火災捜査官であったジャックは、犯罪組織の罠にはまってクビになったところを保険会社に拾われたのですが、過去から現在までの全てに決着をつけるような凄まじい事件に巻きこまれていきます。

不動産会社社長ニックの妻パメラが、太平洋を見下ろす豪邸の火災で焼死。火災捜査官は早々と失火と断定するのですが、ジャックは多額の保険に疑問を持ちます。詳細な調査の結果ジャックは、これは単なる保険金詐欺ではなく殺人だとの確信を得て、保険金支払いを拒むのですが、それは罠の入り口に過ぎませんでした。ジャックはパメラの姉である元恋人のレティとともに陰謀に巻き込まれていきます。

ニックの真の姿は、アメリカで犯罪組織を立ち上げて祖国へ送金するミッションを持った元KGBスパイであり、アルメニア人やヴェトナム人の組織とも関係がある「裏の顔」を持っていたのです。それでも不動産不況とは無縁ではいられず、正業である「表の顔」は痛んでいたのですが、彼の真の狙いは何なのか。やがて、それぞれの犯罪組織のみならず、ロシア・マフィアの内紛、ニックが裏切った祖国ロシアの元KGB上官、秘密捜査を進めていたFBIなどが入り乱れる抗争の末に大火災が起こります。まるで全てを清算するかのように・・。

ラストを少々急ぎすぎた感がありましたが、堪能できました。まさしく大傑作の『犬の力』に繋がっていく作品です。

2010/10