りぼんの読書ノート

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星と輝き花と咲き(松井今朝子)

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明治20年、東京に突如あらわれるや、初舞台からメインを食うほどの喝采で迎えられ、瞬く間にスターとなった竹本綾之助が元祖アイドルならば、学生たちの「どうする連」は元祖おっかけですね。明治期の学生たちの間で「娘義太夫ブーム」があったということは、山田風太郎さんの明治小説などで知ってはいましたが、これほどとは思いませんでした。

馬車鉄道に錦絵が貼られ、寄席や劇場では太い声で歓声が飛び交い、出待ちの群衆からは馬車で必死に脱出。三流新聞には根も葉もないゴシップ記事が載り、美文調の恋文は届き、住居を探し出して押しかけるストーカーまで出現。今と一緒だ・・。

しかも、いったんは結婚で突然の引退をしながらも、10年後に3児の母となって高座に返り咲いて大歓声で迎えられたというのですから、元祖ママドルでもあったのです。まさに「星と輝き花と咲いた」永遠の美少女。

でも、さすがに時代背景は現在とは異なります。芸人の出演機会を左右する力を持っていた寄席席亭の連合会「睦連」や、その手先となって中間マージンを得る仲介屋に対して反旗を翻した、噺家円朝や講談の伯円らの刷新運動に、娘義太夫界も巻き込まれるのです。一部には、ご贔屓との隠微な関係もあった模様。

果たして、元祖アイドルの綾之助は業界の慣習とどう折り合いをつけたのでしょう。もちろん20歳を超えて娘盛りとなったアイドルには、恋愛問題も無縁ではありません。引退して「普通の女の子になりたい」との綾之助の思いはどんな顛末を迎えたのでしょう。幕末から明治期の芸人さんを描いたら第一人者の松井さんの書き下ろし、楽しめますよ。そうそう、母親のお勝は元祖ステージママでもありました。^^

2010/10