出版社の紹介文に「アメリカン・ドリームなき21世紀のアメリカ」とありました。アメリカ社会のダークサイドを描いた文学など、いまさら珍しくもないのですが、この短編集はちょっと突き抜けてしまった感があります。
夢を失った悲しみどころか、はじめから夢など持てないでいる人々。まだ「あちら側」の存在は信じている移民やマイノリティの嘆きとも異なって、「こちら側」からの出口を探そうともせず、ただただ不機嫌になっている人々。マッカーシーがSF仕立てで未来図として描いた『ザ・ロード』のような世界が既に現実になっているかのような、荒涼とした風景が広がっているのです。
茶色い海岸
仕事に失敗して妻からも嫌われ、叔父が持っている、さえない海辺のさえない別荘の修理に来て、ただ魚を飼う男。家に電話すると叔父が出る。隣人からもらった毒ナマコが魚を全滅させる。
仕事に失敗して妻からも嫌われ、叔父が持っている、さえない海辺のさえない別荘の修理に来て、ただ魚を飼う男。家に電話すると叔父が出る。隣人からもらった毒ナマコが魚を全滅させる。
保養地
事業に失敗した不動産業者は、最後に残った金で手に入れた丘に、嫌っている弟を呼んでしまう。弟は隣人の銃でヘラジカを仕留めるが、その肉は腐っている。
事業に失敗した不動産業者は、最後に残った金で手に入れた丘に、嫌っている弟を呼んでしまう。弟は隣人の銃でヘラジカを仕留めるが、その肉は腐っている。
下り坂
別れた妻が付き合っている男が怪我をして、元妻の依頼で男を家まで送っていくハメになる。途中のバーで喧嘩に巻き込まれた男を助けようとして、不良の若者をたたきのめしてしまう。警察が来た時にはもう、男は去っている。
別れた妻が付き合っている男が怪我をして、元妻の依頼で男を家まで送っていくハメになる。途中のバーで喧嘩に巻き込まれた男を助けようとして、不良の若者をたたきのめしてしまう。警察が来た時にはもう、男は去っている。
ヒョウ
どんな嘘も見破ってしまう義父を嫌う11歳の少年は、近所から逃げ出したヒョウが義父を襲おうとするのを、ただ黙って見ている。
どんな嘘も見破ってしまう義父を嫌う11歳の少年は、近所から逃げ出したヒョウが義父を襲おうとするのを、ただ黙って見ている。
目に映るドア
出戻りの娘に引き取られた老人が向かいの家を訪れる。そこに住んでいるのは、娘が言っていた娼婦ではなく、老いた女がこっそりヤクを売っている。
出戻りの娘に引き取られた老人が向かいの家を訪れる。そこに住んでいるのは、娘が言っていた娼婦ではなく、老いた女がこっそりヤクを売っている。
遊園地営業中
家を飛び出した男が職を得た移動遊園地は、中年男女がデートをし、少年がトイレに連れ込まれ、ヤク中の男が事故にあうような吹き溜まり。男は便宜をはかった少女に声をかけるが無視される。
家を飛び出した男が職を得た移動遊園地は、中年男女がデートをし、少年がトイレに連れ込まれ、ヤク中の男が事故にあうような吹き溜まり。男は便宜をはかった少女に声をかけるが無視される。
奪い尽くされ、焼き尽くされ
昨年も襲撃した島を再び襲ったヴァイキングたちは、何もない島に暮らす無気力な住民と出会う。ヴァイキングのひとりは彼らのせいで片腕を失った娘を連れて帰るが、家族への愛ってものには惨めな思いをさせされることはわかっている。
昨年も襲撃した島を再び襲ったヴァイキングたちは、何もない島に暮らす無気力な住民と出会う。ヴァイキングのひとりは彼らのせいで片腕を失った娘を連れて帰るが、家族への愛ってものには惨めな思いをさせされることはわかっている。
ねっ。思いっきり暗いでしょう。その暗さを増幅させているのが、各作品に象徴的に登場する「暗い小物」たち。ネコが食べ残した鳥のひな、殺された男の写真、引き裂かれた腹、澱んだ水槽、薄汚れた刺青・・。登場人物たちのやりばのない怒りを感じて、気分が悪くなってくるほどです。もう読みたくない作家なんですが・・。
2010/10