およそ20年前の、東城大学付属病院の改革期を描いた『バチスタ』シリーズの前史。こちらも独自のシリーズとなっていて『ブラックペアン1988』に続く2冊目です。
後に病院長となる高階は「小天狗」と呼ばれる少壮の講師で、「外科手術の大衆化」を理想として病院改革をめざしているところですが、本書ではブラック・ジャックばりの「神の手」を持つ天才外科医・天城雪彦の敵役となっていて少々影が薄いですね。
当時はまだバブル崩壊前夜ですから、健康保険制度の破綻や、赤字経営病院の続出や、地方の医者不足など、現在の日本医療の惨状は見えていません。そんな中で、ギャンブルで手術諾否を決め、公開治療で「神の手」を派手に売り込む天城はある意味で預言者なのですが、「悪い預言」は世間に信じてもらえないものであり、完全に異端児的な存在です。
でも、本書は完結していませんね。世良が天城との永遠の別れの予感を感じて終わるのですから、天城の快進撃が挫折する続編があるはずです。世良は20年後に病院再生のプロになっているのですが、その
きっかけまで描かれるのでしょう。後に『ジェネラル・ルージュの』の速水先生と結ばれることになる花房看護師との別れもあるはずですが・・。
きっかけまで描かれるのでしょう。後に『ジェネラル・ルージュの』の速水先生と結ばれることになる花房看護師との別れもあるはずですが・・。
スター・ウォーズの「エピソード1~3」のように、将来の着地点が見えてしまう部分もあるのですが、それはそれで楽しめます。しかし、海堂さんのシリーズの人物相関図は複雑ですね。『海堂尊ワールドのすべて』なる「登場人物一覧+相関図+年表」を組み込んだ解説本まで出ちゃうくらいなんですから。でも、主要人物さえ押さえておけば十分でしょう。
2010/10