りぼんの読書ノート

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第81Q戦争(コードウェイナー・スミス)

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荻原規子さんがファンタジーのDNAで紹介していた本ですが、これはSF。宮崎駿さんのナウシカの世界観は、この本を参考にした部分があったのですね。「汚染された大地と水を長い時間をかけて浄化するために植林され、それまでの間は有毒物質を排出し続ける樹」が必要な世界になっているのですから。

とはいえ、それは「人類補完機構」と名付けられた、人類の未来史サーガの一部にすぎません。それは、いったんは滅亡の危機に瀕した人類が再生して、大宇宙へと乗り出していくとのモチーフで1万数千年の未来史を貫く、一連の連作短編ですが、本書はそこから印象的な数作品を抄録した選集です。人類が再生への一歩を踏み出した時代を描いた「マークエルフ」「昼下がりの女王」の2作品がいいですね。

第二次大戦で敗北寸前のドイツがロケットで打ち上げた、冷凍睡眠させた若き3姉妹。「眠り姫」を乗せて数千年も軌道を周回していた古代のカプセルが、隠棲する「真人」によって荒廃した地球に呼び戻されたのを契機に人類の再生が始まるというのです。「古代人」の生命力が求められていたんですね。先に紹介した「浄化の樹」はこの時代のものです。

「人びとが降った日」も、想像を絶しています。泣き叫ぶ女や子供を含めて1日に8千万人もの人間を降下させて、金星を制圧する物語。その大半は死亡したものの、生き残った1千万人で制圧は成功するのです。どこやらの国の人海戦術を思わせますが、著者は少年時代を戦前の中国で過ごして、後に大学教授(兼・陸軍情報部大佐)となった経歴の持ち主なのです。

「宇宙3」なる(今の言葉で言えば)量子論的世界を、愛する女性を追って旅をした男の物語酔いどれ船も秀作です。ランボー詩篇がモチーフになっています。サイバー・パンクを先取りしたかのような作品もありました。1930年代から60年代の「古典SF」ですが、今なお色褪せてはいません。

2010/10