りぼんの読書ノート

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恐怖の谷(コナン・ドイル)

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「めざせ!シャーロキアン!」とスタートした個人企画も、新潮文庫版全10冊のうち、7冊めまできてしまいました。本書は最後の長編となります。

事件を巡るホームズの謎解きに次いで事件の背景を物語る2部構成となっているのは『緋色の研究』や『四つの署名』と同様ですが、『思い出』や『帰還』の後に書かれたこの作品では、悪の天才・モリアーティ教授の影も見え隠れしています。

堀に囲まれた密室ともいえるバールストン屋敷で、主人のダグラス氏が至近距離から散弾銃で頭を撃たれて殺害されます。窓敷居についた靴跡、片方しかない鉄亜鈴、なぜか被害者の指から抜き取られていた結婚指輪から、ホームズはダグラス夫人と屋敷の客人で事件の第一発見者であったバーカー氏の共謀を見破るのですが・・。

タイトルの「恐怖の谷」とは、秘密結社「スコウラーズ」の暴力に支配されていたアメリカの炭鉱町バーミッサのこと。シカゴから流れてきた青年マクマードは、持ち前の豪胆さで秘密結社の幹部に上り詰めていくのですが、彼は組織の犯罪を調査して一網打尽にするために送り込まれた探偵だったのです。

第1部、第2部とも人間が入れ替わるトリックがポイントとなっており、ミステリとしての完成度は、他の長編よりも高いように思えます。その分、異国情緒や怪奇色が薄れたとする向きもあるようですが、なかなかどうして、第2部の迫力も十分でした。

町の名前こそ変えられていますが、バーミッサの町でのピンカートン探偵社による囮捜査は史実とのこと。もっともこの時代のアメリカでは、犯罪者と紙一重のボスが、主に移民グループを束ねて町を牛耳っていることなど、珍しくなかったようです。

2010/9