りぼんの読書ノート

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パリ左岸のピアノ工房(T.E.カーハート)

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パリに住み着いたアメリカ人の著者が、ふとセーヌ左岸にあるピアノ部品屋に気付いて足を踏み入れてみると、別世界が広がっていました。そこは、製造時代も種類も異なる古今東西の古ピアノが集まり、再生されている工房だったのです。

スタインウェイプレイエルやベヒシュタインなどの名器はもちろんのこと、前時代のピアノも、質の劣ったピアノも取り扱う工房の主人で、ピアノ職人でもあるリュックと知り合った著者は、少年時代に学んだピアノへの愛を取り戻して、ピアノという楽器の深遠な世界に入り込んでいきます。

リュックから勧められたシュティングルの中古品を買って、再びピアノを習い始めた著者にとって、ピアノとの出会いは「一見さんお断り」のパリ社会に受け入れられていく過程でもありました。ピアノ教師アンナや、アル中の調律師ジョスとの出会い。リュックの語る、それぞれのピアノに秘められた家族の歴史と、別れのエピソード。現代最高のピアノといわれるイタリアのファツィオーリ工房の訪問・・。

エピソードの間に挿入される、クラヴィコードチェンバロから誕生したピアノが、平均律と鉄製フレームの導入で近代楽器へと生まれ変わっていったという歴史や、モーツァルトベートーヴェンショパン、リストに関する逸話も楽しめます。良質のピアノソナタのように、優雅で軽快な中にも深い内容が潜んでいます。それにしても、「もしもピアノが弾けたなら・・」と思わされる本でしたね。^^;

2010/9