りぼんの読書ノート

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金春屋ゴメス(西條奈加)

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まるで時代小説のようですが、「日本ファンタジーノベル大賞」大賞受賞作です。近未来の日本の中に鎖国状態の「江戸国」が存在しており、社会体制も経済水準も全てが江戸時代のままの生活を営んでいる人々がいるというのですから。この「江戸国」、さすがに東京ではなくて北関東から南東北にかけての一帯にあるとの設定ですので、母体は「日光江戸村」だったりして・・(笑)。

いったん入国したら半年の滞在義務があり、一度出国した者は再入国不可というのに、江戸入国ビザは300倍の超難関。そこを、ある事情で裏口入国した大学生の辰二郎は身の丈六尺六寸、目方四十六貫、極悪非道、無慈悲で鳴らした「金春屋ゴメス」こと長崎奉行の馬込播磨守に身請けされます。

実は辰二郎は江戸生まれであり、幼い頃に罹った謎の流行病「鬼赤痢」の治療のため、両親とともに江戸から出国したという過去があったのです。再び流行の兆しがある致死率100%の「鬼赤痢」の正体を暴くために、彼の記憶が役立つのでは・・との期待が込められた裏口入国だったのですが、果たして・・。

設定もさることながら、「ゴメス」のキャラが抜群ですね。しかも「ゴメス」の正体が意表をついてくれるのも嬉しいところ。史実の制約があるとはいえ、「江戸小説」での女性の扱いには不満だったのです。辰二郎とともに江戸入りして友人となった、元外資系金融勤務で時代劇オタクの松吉や、海外旅行マニアの奈美らも、いい味を出しています。

タイムマシンやタイムスリップを使わなくても、江戸に「現代」を持ち込めるという発想に脱帽です。でも、ヒントは「日光江戸村」ではないかと思ってますが・・(笑)。

2010/9