りぼんの読書ノート

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高慢と偏見とゾンビ(ジェイン・オースティン/セス・グレアム=スミス)

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なんとジェイン・オースティンさんの名作を「ゾンビもの」として改変するという荒業小説。18世紀末のイギリスでは謎の疫病が蔓延し、死者がゾンビとなって人々を襲っていました。田舎町ロングボーンに暮らすベネット家の5人姉妹は、少林拳をマスターして優秀な戦士となるべく、修行とゾンビ退治に明け暮れる毎日。

そんな中、近所に資産家で好青年のビングリーが越してきて、長女ジェインと結ばれそうになるのですが、彼の友人である大貴族のダーシーは2人の関係を引き裂くかのような行動をとるのです。高慢な態度を取るダーシーに対して偏見を持った次女のエリザベスは、反感を覚えるのですが・・。あれっ、ここだけ読むとオリジナルと区別つかない(笑)。

全てのストーリーにゾンビが絡む中で、原作に忠実な展開となっているのは驚きです。ダーシーが、ビングリーからジェインを遠ざけようとしたのは、ジェインが疫病にかかったと思い込んだためだったのですね。(オリジナルより説得力あり!)

一方、ベネット家の遺産相続人で中身カラッポのコリンズと、エリザベスの親友であるシャーロットが結婚したのは、彼女が疫病にかかってしまったから・・。ゾンビ化しつつも正気を保とうとし続けるシャーロットは、あまりにも可愛そうです。コリンズの末路も、5女のリディアと駆け落ちした卑劣な青年士官ウィカムの末路も原作よりも惨めになっていますが、長年の「読者の声」を反映したものなのでしょう。

登場人物のキャラクターも、原作にほぼ忠実です。伝説の戦士にされてしまったレディ・キャサリンをはじめ、かなり誇張されていますが・・。そんな中で一番大きく変えられたのは、主人公のエリザベスかもしれません。かなり残虐なマッチョなんですもの。

訳者の後書きによると、オリジナルを保ちながら別の要素を組み合わせた小説を、音楽の手法になぞらえて「マッシュアップ小説」というそうです。キワモノかと思っていましたが、はからずも楽しめてしまいました。本書の著者(もちろん、セス・グレアム・スミスのほうです)には、リンカーン大統領をバンパイア・ハンターとしてしまった作品もあるとのこと。うわっ!イメージが浮かんでしまった・・。

2010/6