りぼんの読書ノート

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ラウィーニア(ル=グィン)

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アウグストゥスの時代の詩人ウェルギリウスの創作による叙事詩アエネーイス」で、炎上するトロイを脱出してイタリアにたどり着き、やがてローマの祖となる主人公は、地方王族の娘ラウィーニアを巡って、彼女の婚約者であったトゥルヌスと争います。でも本編でのラウィーニアは、類型的な少女として描かれているだけだそうです。

ル=グィンさんはそんなラウィーニアを取り上げて、運命に従いながらも強い意志を持ち、自ら夫を選び、やがては雌オオカミのように息子を守り通す、ひとりの生きた女性として再生してくれました。しかも、彼女がはるか後代の詩人ウェルギリウスの霊に出会って、トロイアの英雄アエネーアスの妻となる運命を告げられるというファンタジー仕立てで!

そういえばウェルギリウスの霊は『神曲』で、ダンテに地獄や煉獄を案内する「師」として登場するのですから、過去に遡ってラウィーニアと出会っても不思議ではありませんね。ではなぜ、ラウィーニアが「永遠の存在」として、現代の私たちに語りかけることができるとされるのでしょう。それは彼女が、「物語的存在」であるからなんですね。物語であるからこそ、不死性を持つ!

とはいえファンタジーっぽいのは全体の枠組みだけであり、ところどころに神々の姿が垣間見えるとはいえ、物語自体はかなりリアルな展開です。遺跡も存在しない太古の神話的な出来事を語るために、その世界全体を構築する手法も以前と変わっていません。オールウェイズ・カミングホームで「未来の考古学」と名づけた手法ですね。80歳を過ぎてなお、円熟味を増し続けているル=グィンさんの手による、古代ローマの建国神話をお楽しみください。

2010/6