りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

空の中(有川浩)

イメージ 1

ラピュタガメラプテラノドンが好きだという作者が書いた、「怪獣ものと恋愛ものを足し合わせて、航空自衛隊で和えた小説」だそうですが、まさにその通り。

200X年、高度2万メートルの日本上空で立て続けに起きた航空機事故。ひとつは純国産民間ジェットの開発機であり、もうひとつは自衛隊の戦闘機。原因を調査する民間飛行機会社の技術者・春名は、事故原因の調査のため、事故直前に現場を離脱して生き残った自衛隊の女性パイロット・光輝とともに事故空域を訪れて、巨大な浮遊生物を発見します。

一方、事故死した自衛隊パイロットの息子・瞬は、海辺に流れ着いた不思議な生物を拾って飼いはじめます。驚くべきことにその生物は電波に反応し、携帯電話の回線を使って会話する知能を持っていたのです。

おもしろかったですね。本書に登場する「怪獣」は、むやみに暴れて日本を襲うものではなく、知的生物であり、会話と説得で共存をはかることになるあたり、深海のYrr(イール)と共通しています。あちらは深海の単細胞生物の集合体であり、こちらは高空に棲む(もとは海棲でしたが)巨大で単一の固体という違いはありますが、どちらも人類よりも旧い起源を持つ知性体。必ずしも人類に敵対するものではないけれど、ひとたび牙をむくと圧倒的なパワーを持っているところも一緒です。

本書では、衝突が原因で分裂した固体が瞬になついて元の仲間に攻撃を仕掛けるのですが、「個人の操る武器」の不完全さや危うさも描かれます。正太郎少年の操る「鉄人28号」をはじめとして、少年を主人公とする昔のアニメ・ヒーローは怖い存在だったのですね。

著者の得意とするベタな恋愛も楽しめましたよ。柔軟な論理の使い手・春名と、美女ながらキマジメな自衛官・光輝の不器用な恋愛も、高校生の瞬と、幼馴染みの佳江の間を流れる、淡く純真な恋心も悪くなかったな。

四国の自然を長年相手にしてきた宮じいの「人生の達人」ぶりは、さすがです。ただ、父を失い、母に心を閉ざされた孤独な美少女・真帆の存在はさすがにベタすぎ。心の歪んだ美少女を諭せずに、人類の危機を招くというのは、どうも・・。

2010/5