りぼんの読書ノート

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シンメトリーの地図帳(マーカス・デュ・ソートイ)

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オックスフォード大学教授であり、イギリスで抜群の知名度を誇る数学者である著者が、「素数論」に次いで紹介してくれたのは「対称性」をキーワードとした「群論」でした。

読み物としては楽しめましたが、数学的な内容は難解。「3次元空間でのオレンジの積み方」なら理解できるけど、「24次元空間でのオレンジの積み方」なんて言われたら、想像力の及ぶ範囲の遥か彼方です。しかも、「モンスター」と呼ばれる対象群が存在するのは、19万次元とか、2129万次元とか、8億4千万次元なんていうのですから・・。

著者はある1年の活動を振り返りながら、群論の歴史的および数学的な解説に触れていきます。古代バビロニアの数学者が残した二次方程式や、7世紀インドでのマイナス解の発見。11世紀ペルシャのオマール・ハイヤームによる三次方程式の発見や、16世紀イタリアでの三次・四次方程式の解の公式に関する議論・・。このあたりまでは、なんとかついていけます。

19世紀初頭、ノルウェーのアーベルが五次方程式の公式は存在しないことを証明するために群論を導入したことあたりから理解は難しくなっていく。群論創始者であるガロアに至っては、読者をギブアップさせないためでしょうか、詳細な数学的な説明すら登場しません(笑)。

「シンメトリーの周期表」のアイデアを抱いたジョルダンから、その最終形「アトラス」を完成したゴレンシュタインに至る、近現代の数学者たちの業績に至っては、知の巨人たちが少しずつ業績やアイデアを積み上げてきたということを理解するのがせいいっぱい。でも、読んでいる最中は、数学史上の「意味」程度は理解できる気がするのが不思議です。

わかりやすいのは、もっと身近に存在する対称性ですね。音楽や、美術や、建築はもちろん、生物の成長やウィルスの分子構造などの自然界の営みや、脳の働きや、異性に対する好みにさえ現れる「対称性」は、私のような一般読者に対して数学と自然界との不思議な関係への興味を繋ぐための「読み物部分」なのでしょう。ひょっとしたら、この手で、息子さんを数学の世界に誘っているのかも・・。^^

さらに、『素数の音楽』で素数と宇宙の神秘との関わりを説いた著者は、本書でも「モンスター」と呼ばれる超次元のシンメトリーと「モジュラー関数」との不思議な一致から、「対象論」と宇宙の成り立ちとの関係を示唆します。はるかな宇宙へと、読者の思いをいざなってくれるのです。

2010/5