りぼんの読書ノート

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アルネの遺品(ジークフリート・レンツ)

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舞台は北ドイツの港町、ハンブルク。船乗りの父親と家族を一家心中で失った12歳の少年アルネは、父親の友人であった家族に引き取られますが、15歳の夏に自殺してしまいます。本書は、新しい兄としてアルネを理解しようと努めながら果たせなかった5歳年上のハンスが、アルネの遺品を整理しながら、悲しみと後悔の念とともに、アルネと過した短い期間を振り返るとの構成になっています。

アルネはあまりにも繊細で純粋無垢な少年でした。古いロープの結び目を解いたときに起きるという風を感じ、灯台の模型や、古い海図や、色あせたアフリカの楽器などに亡き父親を思い出し、海を感じることができたアルネ。船の解体工場を営む厳格なハンスの父親を尊敬し、ハンスの父親がやはり昔の友情から面倒を見ている倉庫番のカルック老人とも分け隔てなく接し、ハンスの妹ヴィープケに幼い恋心を抱いていたアルネ。

しかし同年代の少年たちには、こんなアルネを仲間と見なすことは難しかったようです。アルネが一番望んでいたのは、皆と仲良くなることだったのに。やがて友人たちに受け入れられるために、ハンスの父親やカルック老人を裏切る行為をしてしまったアルネは・・。

アルネ君のような少年には、この世界は生き辛かったのでしょうね。問題となった事件など、生きるための逞しさを身につけるチャンスでもあったのに、そこを超えられなかったというのは、実の両親を失っていたせいなのでしょうか。ハンスが、アルネの遺品を整理しながら、彼も知らなかったアルネの人生の断面を妹ヴィープケや、弟ラースから聞いて「悲しいことばかりではなかった」と振り返る場面には、ほのぼのとした明るさを感じたのですが・・。

2010/5読了