りぼんの読書ノート

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「ジャパン」はなぜ負けるのか(サイモン・クーパー/ステファン・シマンスキー)

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南アフリカW杯の日本代表が選出されました。アントラーズの小笠原が入らなかったのは悔しいけど、選ばれたメンバーには大活躍して欲しいものです。

なんとも挑発的なタイトルですが、本来のタイトルは「経済学が解明するサッカーの不条理」。本書では、ジャーナリストと経済学者のコンビが、サッカー界で「常識」とされている事柄をさまざまなデータを用いて検証しながら、「どうすれば勝てるチームを作れるのか」との核心に迫っていきます。

サッカークラブの運営が、決して利益を期待できるものではないことは証明されています。一方で、大恐慌にも、第二次世界大戦にも、サッチャー主義にも、リーマンショックにも負けずに生き延びているんですね。倒産した時に損をするのはオーナーだけだそうです。これはもはやビジネスではなく、公共事業?

「1-0」で勝負が決することも多いサッカーでは、PKは「罪」と「罰」がバランスしていないようですが、オッズの高いチームの勝率にはPKの有無による有意差はありません。

世界で一番サッカーが好きなのはノルウェーだそうです。たぶん次がスコットランド実力主義のサッカーでは人種差別は一掃されたと思っていたのに、根強く残っていました。ヨーロッパのチームで監督となった黒人やアジア人がいかに少ないことか。

民主国家の首都のクラブはヨーロッパ王者になれないそうです。そういえば過去の王者は、マンチェスター、ミラノ、バルセロナリバプールミュンヘントリノ・・と、かつての工業都市が多いんですね。サッカー人気の興隆期が、それらの地域での人口増加時期と重なっていたそうです。新住民のアイデンティティ強化に役立ったのですね。唯一の例外がマドリッド。かつては、政府が威信を賭けた独裁国家社会主義国家の首都チームが強かったとのこと。レアル・マドリッドの強さはフランコの遺産?

しかし現代サッカーの強さを決定するのは、人口、経済力、経験値(後で触れます)であり、かつては強かった小地方都市チームの衰退も著しい。ロンドン、パリ、ベルリン、ローマなどの首都チームがヨーロッパチャンピオンの座に着く日も遠くないのでは?

どれも興味深いテーマですが「イングランド代表はもっとやれるはずだ(注*)」など、イギリス
中心の内容ですので、欧州サッカー界に興味が薄い方には、おもしろくないかもしれません。アメリカ大リーグに興味がないと『マネー・ボール』が楽しめないのと一緒です。

でも、日本語版のために書き下ろされた『第2章:「ジャパン」はなぜ負けるのか』には興味ある人は多いのではないでしょうか。人口も経済力も世界で上位にある日本がなぜ勝てないのか? どうやら「ゴールを目指さず、決定力に欠ける」というような民族性の問題ではなさそうです。著者は、三要素のうち最も重要な「経験値」の低さにあると言い切ります。それは一流国との交流試合数であり、一流リーグでプレーする日本人プレーヤーの数であり、一流国での経験豊富な監督の存在なんですね。

サッカーの中心地である欧州や南米から遠く隔たった日本が交流試合を増やすのは難しいし、中田、小野、俊介、稲本、長谷部、本田のように欧州リーグで活躍できるような人材だって、そう簡単には増えません。でも、比較的簡単な方法があるのです。それは一流監督の招聘。ヒディングに率いられた韓国やオーストラリアの躍進は、まだ記憶に新しいですよね。オシムが倒れたことを悔やんでも仕方ありませんし、目前に迫ったワールドカップにはもう間に合わないのですが・・。

2010/6/8読了



(注*)イングランド人の大半は、サッカーの「パラレルワールド」を夢想しているそうです。
・1986年のメキシコで、審判がマラドーナの「神の手」をハンドと気付いていたら・・。
・1998年のフランスで、ベッカムシメオネの挑発に乗っていなかったら・・。
・2002年の日本で、全く無名の若造が「偶然」ラッキーなフリーキックを決めなかったら・・。
(この時の無名の若造とは、ロナウジーニョのことです)
・2006年のドイツで、クリスティアーノ・ロナウドルーニーの反則を告げ口しなかったら・・。
こんな事例は枚挙にいとまがないそうです。^^

日本でもありますよね。
・1993年のドーハで、フセインショートコーナーにもっと注意していたら・・。
・2002年の日本大会に、トルシェが中村俊介を選んでいたら・・。
・2006年のドイツで、オーストラリア戦の終盤にスタミナが切れなかったら・・。
やっぱり「パラレルワールド」です。^^;