北海道の岩見沢にある謎の教育施設は、厳しいルールと鉄条網で世間から隔離されており、毎年何人もの生徒が行方不明になるといいますから、まるで収容所。函館で危篤に陥ったという父に会うために、黄色いインコとともに施設を脱走した少年は、海に沿ってひたすら歩き続けるのですが、施設から追っ手がかかります。
そもそもその施設とは、どんなところなのでしょう。それは、人間が人間である起源とされる「憎悪」の凝固体が、人間に憑依して作らせた施設で、人間に火炙りのダンスを躍らせるため、新たな「憎悪」の火を熾すことを目的としています。その存在はゲルミナンド・ヘステと呼ばれ、かつて魔女狩りの裁判官に、ナチスのヒムラーに、隠れキリシタン弾圧者に、ハーメルンの笛吹き男などに憑依したことがあるんですね。
では、施設が総力をもって追跡するこの少年とは、いったい何者なのでしょう。彼は五島列島で隠れキリシタンの弾圧者に抵抗した家系の末裔にあたり、施設の草創期に彼の祖母らが命を賭けておこなった戦いが、「憎悪」から時空を超える力を一時的に奪って、この地にとどめているのです。少年は、祖母や父の戦いを継承する運命にあったんですね。苦難の末に父親と再会し、自らの生い立ちを知った少年は戦士となり、4人の仲間とともにゲルミナンド・ヘステに対する戦いを始めるのですが・・。
こう書いてしまうと、ゲームのようなファンタジーに思われてしまうでしょうか。確かにそういう側面もあり、戦いの場面などはアニメやコミックのようにわかりやすい。たとえば村上春樹さんの著書のように、読者に内省を促す性質の小説ではないのでしょう。でも本書は、タイトルとなっている「ダンス」の強烈なイメージによって救われています。悪役の姿として「ハーメルンの笛吹き男」を持ってきたのも新鮮な感じ。少年が函館を目指す「ロードノヴェル部分」のみずみずしさも良かったですね。
2010/5