りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

無理(奥田英朗)

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東北の3つの町が合併してできた人口12万の地方都市「ゆめの市」を舞台にして、時代の閉塞状況を描いた作品です。

主要な登場人物は5人。身勝手な市民に嫌気がさしている生活保護担当の市職員、相原友則。東京の大学に進学し、町を出ようと心に決めている高校2年生の久保史恵。暴走族上がりで詐欺まがいの商品を売りつけるセールスマンの加藤裕也。スーパーの保安員をしながら新興宗教にすがる孤独な48歳女性、堀部妙子。ゆくゆくは県議会に打って出るつもりの2世市議会議員、山本順一。

だれもが鬱屈した生活を余儀なくされていて、とりわけ加藤や堀部、さらに相原が担当している生活保護者の暮らしぶりを見ると、「日本には下層階級ないない」などと言い放つ政治家の言葉が寒々しく思えてきます。本書の紹介文には「出口のないこの社会で彼らに未来は開けるのか」とありますが、未来どころではありません。誰もが悪循環に陥って、ドツボにはまっていくのです。

市職員は、主婦買春にはまりこみ、生活保護認定問題で逆恨みをうける。女子高生は、母親に暴力をふるうひきこもりニートに誘拐されてしまう。いかがわしいセールスマンは、暴走族上がりの先輩が犯した犯罪に巻き込まれる。保安員をクビになった中年女性は、ますます新興宗教にはまり込んでいく。市会議員は、ヤクザまがいの土建業者との利権がらみ案件で窮地に陥っていく。そして、それぞれが破滅への道を突き進む交差点で、彼らは一堂に会するのですが・・。

閉塞的な状況のもとでは、不満の渦だって地域の外に出て行きようもありません。同じ地域の、同じ境遇の他人に向かっていくのです。「地獄とは他人のことだ」で有名な、サルトルの『出口なし』を思い出しました。

ただし、桐野夏生さんのメタボラなどと較べると、文学的な凄みはありませんし、同じ著者のサウス・バウンドにはあった破天荒さも感じられない作品でした。著者には同趣旨の『最悪』、『邪魔』という作品もあるようですが、こんな内容の本ばかりでは、もう読みたくはないなぁ。

2009/12